No.265/2024年9月21日【塩】 うつくしき塩の柱のロトの妻こころに棲ますわが妻として

伊藤一彦

ソドムの町から逃げるときに「振りかえるな」と神から言われていたのに振りかえったために塩の柱になってしまったロトの妻。当時の人々にとってきわめて大事だった「塩」の柱。逃げる一行の誰も振りかえらなかったらそれはアダムとイブの子孫の人間ではない、必ず誰かが振りかえる。神はそう思っていたはずだ。もっとも勇気のあるロトの妻が振りかえった。神は祝福するように輝く美しい塩の柱にロトの妻を変身させた。教会の解釈とちがう勝手な私の考えだが、人は振りかえらないで生きてゆけるものではないと思う。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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