「わたしこそ死のいろなのよ」黒も白もゆづらねば赤が黙れと秋夜ふけゆく
切羽詰まってこんな歌できた。重陽の節句というめでたい今日なのに。ふいに「色」たちが議論している声がきこえてきたのだ。中世の甲冑には黒縅(おどし)、白縅、赤縅がある。武者たちはどのような基準で色を決めたのだろうか。甲冑の「色」同士が華やかに闘う場面を想像する。3日前の9月6日の或る新聞のコラムに「9月6日は黒の日」と書いてあった。では、白の日は4月6日か。赤は黒の反対なら6月9日か。赤が怒りそうだ。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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