筑紫次郎 流れる川の君の背に手紙のような秋の陽がさす
筑後川は筑紫次郎の異名を持つ。それゆえ男性的な感じがする。内なる悲しみや悔しさを外には見せず、後ろ姿で語るような少し古風な九州男児をイメージしてしまう。話しかけてもあまり振り向いてくれないような男性だ。そんな想像をしてしまうのは、私の亡き祖父への想いがあるからか。福岡の祖父の名前は千歳だった。筑後川はかつて「千歳川」「千年川」(どちらも読みは「ちとせがわ」)とも呼ばれていたそうだ。祖父の名前はこの川の名前から採ったものだろうか。今残っている親戚は誰も知らない。雄大な川をじっと見つめても答えは返ってこないけれど。
作者/乃上あつこ(のがみあつこ)
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1976年、横浜市生まれ。東京女子大学文理学部卒。中国留学を経て現在は銀座の美容施設に勤務。2014年から短歌を始め、第三十一回玲瓏賞受賞。現在は玲瓏、現代短歌南の会「梁」、牧水研究会に所属。
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