あくがれて宇宙のどこか旅してる一三九歳の牧水さんは
若山牧水は1885年(明治18年)8月24日に東郷町坪谷で生まれた。その日のことは当然記憶はないのはずだが(トルストイや三島由紀夫は出生時を覚えている例外らしい)、牧水は覚えているかのように歌っている。「おもひやるかのうす青き峡のおくにわれのうまれし朝のさびしさ」「ふるさとは山のおくなる山なりきうら若き母の乳にすがりき」(『路上』)。自分の心身のよりどころとして常に母と故郷があった。だから牧水は安んじてどこまでも旅することができたのかもしれない。この世を去った後も宇宙を自在に旅しているはずである。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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