No.228/2024年8月15日【散】 散華せし、させられし兄たちの心思『きけわだつみのこえ』に知りき

伊藤一彦

昭和20年8月15日の記憶は私にはない。まだ2歳にもなったいなかったからである。ただ、敗戦後の厳しい暮らしは記憶している。もっとも、皆がそうだったから、当たり前として受けとめていた。父も戦死せず、母も元気だったからということもあるだろう。そんな田舎ののんきな私が身近なものとして強く戦争を考えるようになったのは、高校の時に『きけわだつみのこえ』を読んでからである。私があと15年か20年早く生まれていれば戦没学生の運命はそのまま私の運命だった。そう思うと本を手放せなくなったのである。学徒出陣は私の生まれた昭和18年に始まっている。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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