アユヤナの簀の子に落ちし鮎の眼の天つ光を嵌めてかなしも
アユタヤを知らないが、「犬の瞳に映りここむ瓦礫のなかを」の鋭く緊迫感のある表現に十分想像できた。私の方はアユヤナの歌。牧水が中学時代をすごした延岡の五ヶ瀬川のアユヤナは有名だ。秋になると産卵のために川を下ってくる鮎をとらえるのだ。もっとも、牧水の鮎の歌は故郷の坪谷の川で釣っている歌である。「囮(おとり)の鮎生きのよければよく釣れきをとりの鮎をいたはり囲ひき」など友釣りの歌を詠んでいる。この歌をふくむ「鮎つりの思ひ出」の連作を死の二年前に残している。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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