水求め川の岸のへに死に絶えし人をうたひき十年後に
長崎に原子爆弾が落とされた今日、あらためて竹山広さんの歌集を開く。「水を乞ひてにじり寄りざまそのいのち尽きむとぞする闇の中の声」「水のへに到り得し手をうち重ねいづれが先に死にし母と子」「くろぐろと水満ち水にうち合へる死者満ちてわがとこしへの川」のこれまで幾度も読んだ作を改めて心して読む。竹山さんがこれらの歌を詠んだのは被爆して十年後だった。なぜ十年だったのか。そして、この歌集『とこしへの川』の刊行はさらにその二十五年後だった。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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