がうがうと流るる河に橋のなく渡し守をらぬ岸に立つ生か
西日本は梅雨末期の豪雨に襲われているところが多い。昔は橋のない川も多く、豪雨のため水量が増すと、渡し船も出ずに、川辺の宿に時を待つしかなかった。ある川のそんな木賃宿の相部屋に一人の武士が泊まることになったところから始まる葉室麟著の『川あかり』(双葉文庫)は傑作で、私の愛読書である。島内景二氏に教えられた。日が落ちて暗くなっても川面だけは白く輝いている。それが川あかりだ、島内氏は解説で言う。「川あかりは、希望の光である。そして、大人になるとは、川を渡るとは、自分が川明かりから勇気をもらうのではなく、自分自身が川あかりとなって、他の人々に勇気を与える側に回ることなのだ」と。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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