殴ち合ふは友情のしるし青春のあかし されど我殴ち合はざりき
自分の意見が絶対に正しいと思えば、相手が違う意見のとき、議論を吹きかけて説得する。しかし、相手が考えを翻さないときき、どうするか。「表に出ろ」と言って、路上で腕力で納得させる。殴りあいになる。結局はお互い気がすんだのか、仲良く酒を飲みはじめる。若いときにそんな場面の二人に出会ったことがあるが、私は一度も論争の果てに殴りあったことはない。自分の考えを絶対に正しいと主張する自信と強さが当時なかったのだと思う。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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