いちごつみ6月の短歌ふりかえり

おしらせ

6月がおわり、一年も半分が過ぎてしまいました。
まだ梅雨は明けませんが、蝉も鳴き始め夏本番が近づいてきていますね。
6月の歌でそれぞれ印象に残ったものをふりかえります。

6月の歌のアーカイブはこちら↓

それぞれの心に残った6月の短歌

伊藤一彦・選

No.165/2024年6月13日【浮・毛】
湖に白鳥一羽浮いている春はじめての円形脱毛 (乃上あつこ)

伊藤一彦
伊藤一彦

深く印象に残った歌だった。読みはさまざまにできる。一番素直な読みは。 何らかのストレスで初めて円形脱毛になった人が心を癒すように森の湖を訪 ねている場面だろうか。「白鳥」の「は」、「春」の「は」、「はじめて」の 「は」の三つの「は」音がうつくしい。ところが、作者は髪の奥にひっそりと できていた円形脱毛を、一羽の白鳥をひそかに飼っているつもりでうたったと いう。さすがである。だが、傷を持ちながら一冬を生き抜いた白鳥と自身を重 ねている作者の歌私の読みもわるくないと思うのだが。

No.167/2024年6月15日【猛獣】
乳色の歯を尖らせて猛獣になるかもしれぬ子猫のあくび (久永草太)

伊藤一彦
伊藤一彦

獣医師の草太さんの歌も文章もたのしみである。もっとも、職場では悪戦苦闘の 日も多いに違いないが。忙しい中で、「三世代のいちごつみ」のこのホームペー ジもかんりしてもらっている。 この歌。まず「乳色の歯」の確かな描写が見逃せない。子猫のみならず、一首全体 にリアリティを与えている。そして「猛獣になるかもしれぬ」と緊張感をたかめ て、結びは「あくび」。この「あくび」が草太さんらしくて、とてもいい。

乃上あつこ・選

No.163/2024年6月11日【薄】
薄いろのきぬをまとへるゆふぞらの更衣たのしも滅紫(けしむらさき)に (伊藤一彦)

乃上あつこ
乃上あつこ

伊藤先生の歌と文章を読むことで、とても学びになっています。言葉だけではなく、その背景の知識が少しずつ身につきます。「滅紫」という語を知りました。絹をまとう空の繊細な色の変化がとても美しいですね。

No.173/2024年6月21日【追い】
太陽に追い詰められて夏至ついに夜空の逆襲劇がはじまる (久永草太)

乃上あつこ
乃上あつこ

天体のダイナミックな動きがよく表現されていて、痛快な一首です。太陽VS夜空の戦隊ヒーロー同士の戦いが立ち上がるようでワクワクしました。第三句の「夏至ついに」によって歌のリズム感も高まります。

久永草太・選

No.178/2024年6月26日【溶ける・氷】
溶けること快か苦か問へば氷君(こほりくん)向きをかへたりかすかに音たて (伊藤一彦)

久永草太
久永草太

歌を見た瞬間「こおりくん⁈」と目を見開いてしまいました。なんと親しげに氷と向かい合っていることか。たしかに熱いお茶に氷を入れると、鳴き声のようにキュウキュウと音が鳴ります。そこへの注目だけでも面白い歌なのですが、「向きをかへたり」という、大変細かい、細かすぎて今まで文字にしようと思ったことのないようなところにまで及ぶ描写が、一首の解像度を数段上のものにしてくれています。

No.153/2024年6月1日【全身】
星屑語の文法わからぬわれのため星全身で光ってくれる (乃上あつこ)

久永草太
久永草太

上空の大気の温度差による空気のゆらぎで、星がちかちかと瞬く様子を、乃上さんの目を通してみると、星屑が言葉を交わしているように見えるそう。その目が心底羨ましく思われます。そしてそれを「文法がわからない」と表現しているのも真剣味があって楽しい。それとうまく説明できないのですが「星全身で」の助詞を省いた記述が、独特の韻律をこの歌にもたらしているように感じます。

7月のおしらせ

おしらせ① 歌を回す順番

7月1日から、歌をリレーする順番が逆回転になります。
6月:伊藤←乃上←久永
7月:伊藤→乃上→久永

おしらせ② 弟、続投(特別ゲスト)

いちごつみ一家の弟、福山ろかさんには、7月も続けてご参加いただくことになりました!

作者/福山ろか(ふくやまろか)

2004年、浜松市生まれ。埼玉県在住。高校一年次、現代文の授業をきっかけに作歌を始める。「さえずりに気づく」で第六十八回角川短歌賞次席。「眼鏡のふち」で第六十九回角川短歌賞次席。「白昼」で第三十五回歌壇賞次席。慶應義塾大学在学中。東京大学Q短歌会所属。

毎週日曜日が特別ゲストの曜日になっております。6月の歌も福山さんの作風がびゅんびゅん吹いておりました。7月も楽しみです。

おしらせ③ 7月の写真

月毎に変わっていくサムネイル画像。
7月はいちご山盛りのパフェです。写真は先月まで特別ゲストとして歌をお寄せくださった俵万智さんのご提供です。

お花みたいできれいですね。

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