No.178/2024年6月26日【溶ける・氷】 溶けること快か苦か問へば氷君(こほりくん)向きをかへたりかすかに音たて

伊藤一彦

明日は上田秋成忌。『雨月物語』で知られる秋成だが、国学者で歌人である。私の知人に秀でた秋成研究者がいる。大阪在住の飯倉洋一氏で、『秋成考』の大著があり。一昨年の没後200年記念の京都国立博物館での特別展「上田秋成」では作品解説をされていた。私は秋成について全くの素人である。しかし、その和歌には心惹かれている。たとえば「野鴉の羽吹(はぶき)の風に散されし名残の枝の梅かをるなり」は鴉の羽ばたきで花を散らされた梅がなお残っている枝の花を薫らせているという歌だ。また「森深き神のやしろの古簾(ふるすだれ)すけきにとまる風の落葉は」は風に飛ばされた葉が社の古いすだれの隙間になおとどまって地に落ちずがんばっているという歌だ。あつこさんの歌と文章からこんな秋成の歌を思い出した。「すけきにとまる風の落葉」とはしぶとくて格好いいではないか。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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