薄いろのきぬをまとへるゆふぞらの更衣たのしも滅紫に
「薄」の語のついた色の言葉は少なくない。薄墨色、薄卵色、薄花色など。しかし、単に「薄色」といえば薄紫色である。「滅紫」とは黒みがかった濃い紫色で、あとは夜の闇が待っている。夕空の刻々と変化する色は眺めて飽きない。季節によって違うし、その日の気象の状態によっても異なる。わが家の西の彼方には高千穂峰が聳えているが、ニニギノミコトがたなびく雲を押分けて降臨したのは何時ごろだったろうかと思う。いずれにしても、「ここは朝日の直刺(たださ)す国、夕日の日照る国」と讃えられた日向である。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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