にんげんを知らぬ無数の波の眼のかがやくかなた 沖つ鳥ゐる
動物はほとんど眼をもっている。植物も芽という眼をもって世界をうかがう。空にも眼を感じることがある。海の波にも眼を感じる。「めぐし(愛し)」にも「眼」の字が入っているが、いとしい、時に苦しくなるほどいとしい気持ちを抱かせるのが「眼」だろう。瀬戸内海の波を船上から、あるいは機中から見たせいか、夢の中にも波の眼がでてくる。白い沖つ鳥も仄見えた。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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