コップ割る熱湯のような若き日に心しづめて歌にむかひき
東京の学生時代に、小説や近現代の詩も読んだが、短歌と俳句の定形詩はとくに心にしみ入った。短歌はクラスメイトの福島泰樹に誘われて自分でも創作をはじめた。俳句は実作はしなかったが、かなり熱心に読んだ。自由で非定型の東京という空間の中にあって、地方出身の私は寄る辺のように定形を求めたのかも知れない。今日は山本健吉忌。山本健吉の『現代俳句』は私の俳句入門書だった。いま書棚から取り出すと奥付は昭和40年5月20日発行、定価190円である。すっかり茶色に変色しているが、まだ大事にもっている。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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