今年のゴールデンウィークは前半、後半に分かれましたね。狭間の平日には苦しいものがありますが、一緒に乗り切りましょう。
誕生日企画や特別ゲスト登場など、いろいろあった4月でした。印象に残ったお互いの歌を振り返ります。
4月の歌のアーカイブはこちら↓
それぞれの心に残った4月の短歌
伊藤一彦・選
No.100/2024年4月9日【誰】
冷酷な操り人形師の手つき見入る誰もが糸でつながれ (乃上あつこ)
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草太さんの「誰」のいちごを摘んだ歌。いいように操られている人形をかわいそうと思って見ている人々、実は彼らも操られているのだ。本人たちは気づいてないが。この人々はわれわれ自身だ。最も強力で見えない「糸」は「情報」だろう。意図的なフェイクの情報にさらされているわれわれの危機を鋭く詠んだ一首だ。「人形師」の句またがり、結句の連用形止めが成功している。
No.111/2024年4月20日【怪し】
恋ヶ浦通りて夫婦浦へ行く道の怪しさこの九十九折れ (久永草太)
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私もこの道路を幾度か走ったことがある。串間市の恋ヶ浦から日南市の夫婦浦まで美しい海岸線がつづく。ただしカーブの連続だ。「浦」の名前を使って恋の心を切なく歌っている。恋の道は九十九折れという嘆きの歌。ところで、やまとことばの「うら」は表から見えないところの意。つまり「裏」。海が湾に入って見えないのが「浦」、目に見えない神の心が「占」など。「万葉集」に出てくる「うらかなし」「うらさびし」の「うら」は心の裏、心の奥のこと。草太さんはカーブでハンドルを切りながら「うらかなし」「うらさびし」の気持ちをあじわっていたか。
乃上あつこ・選
No.113/2024年4月22日【十】
この世去り三十年の父とほくよりかへりくるパスポート持つなり (伊藤一彦)
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パスポートは、所有者である自分が動くためのものだと思っていたので、相手が自分を訪れるために持っているという視点を示して下さり、とても安心して温かい気持ちになりました。こちらから無理に動かなくても(動けなくても)、いろいろなものが来てくれて与えてくれていることを歌を通して教えていただきました。
No.96/2024年4月5日【うすあお】
うすあおく暮れゆく家をいとしみて水中都市のような眠たさ (久永草太)
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いろいろな意味で衝撃を受けました。歌そのものの表現する景の良さはもちろん、「家をいとし」む感覚や、「水中都市」と「眠たさ」の繋がりなど、ハッとさせられました。一番の驚きは、夕方は暗くなっていって悲しいものだと思っていたので、薄青くてきれいという見方があることを教えられました。
久永草太・選
No.107/2024年4月16日【賞味期限】
人間の賞味期限は生きてゐる限りよと亡き母の春の声 (伊藤一彦)
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パワフルな母の言葉から生まれた一首を選びました。「人間の賞味期限」というのは単に寿命というだけではないと思います。その人となりに味わいがあるからこその「賞味」期限。亡き母の声ではあるけれど、「春の声」だからきっとしゃきっとした声なのでしょう。ぎりぎりまで熟成させたゴルゴンゾーラチーズのように、賞味期限のすれっすれまで滋味豊かな人間でありたいものです。
No.97/2024年4月6日【眠・水】
泥つきの牛蒡の眠りを覚ますごと水かけ、洗い、皮をこそげる (乃上あつこ)
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最近けんちん汁を覚えてよく作るのですが、洗いごぼうを買ってきて使うのと、泥つきごぼうを洗うところから始めるのとでは労力がだいぶ違います。が、味も違う。泥つきごぼうで作ったほうがやっぱり風味が濃いのです。泥が落とし切れていないのでは、という疑念はちょいと脇に置いといて、あの風味はごぼうが眠って蓄えていたものなのだと、その目覚めなのだと、そう思うといっそう美味しい。丁寧な歌いぶりが印象に残った歌でした。
5月のおしらせ
おしらせ① 歌を回す順番
5月1日から、歌をリレーする順番が逆回転になります。
4月:伊藤←乃上←久永
5月:伊藤→乃上→久永
おしらせ② 大叔母、続投(特別ゲスト)
いちごつみ一家を訪ねて帰省中の大叔母こと特別ゲスト・俵万智さん。
5月も引き続きいちごつみに参加してくださるとのことです! うれしい!
作者/俵万智(たわらまち)
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1962年、大阪生まれ。「心の花」会員。歌集に『サラダ記念日』『未来のサイズ』『アボガドの種』など。4月からNHK短歌、第二週の選者を務める。
俵さんは毎週日曜日にいちごを摘みにふらっとやってきます。乞うご期待!
おしらせ③ 5月の写真
月毎に変わっていくサムネイル画像。5月は乃上さんがカフェで食べた苺タルトになります。
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とてもおいしそう。とてもうらやましい。
5月のいちごつみもおたのしみください!
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