術のなきこと面白けれ老獪とローマは一日にしてならず
「たらちねの母が手はなれかくばかり術なきことはいまだ為(せ)なくに」はよく知られた「万葉集」の歌だが、心理的離乳期の十代から本格的に悩みが始まる。人生ってどうしてこんなに「術なき」ことの連続なんだろうと悩むことになる。私は文学や哲学の本に助けを求めた。それでも「術なき」日々だった。ところが、年老いると「術なき」事態にぶつかってもほとんど平気になった。「術なき」日々を繰り返してきて狎れたのか、鈍くなったのか。年は取るものだ。若いときの自分にそう言ってやりたい。エッ、強がるなって!
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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