No.113/2024年4月22日【十】 この世去り三十年の父とほくよりかへりくるパスポート持つなり

伊藤一彦

俵さんの歌と文章を読んで、本当にそうだろうなと思い心にしみた。「どん兵衛と目が合っている」、じつはありし日の父親と目が合っているのだ。今年2月20日の朝日新聞の俵さんのエッセイ「改めて父にありがとう」という珠玉の一篇を思い出す。私の父は世を去って今年で30年になる。父が死んだときは遠くに行ってしまったように思い寂しかったが、このごろその父が遠くから帰ってきていつも身近にいる気がする。「亡き人は亡きにはあらず扉一つわづかにへだて近々とあり」と私はかつて詠んだが、いまいっそうそんな想いだ。偶然ながら今日22日は父の月命日。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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