人麻呂は知れどマシュマロは知らざりし無骨の赤提灯族なりき
学生時代に村木道彦の「するだろう ぼくをすてたるものがたりマシュマロくちにほおばりながら」の歌に出会ったときは新鮮な口語文体に目をみはった。そして、同時に初めて出会うマシュマロの語にこれはなんだろうかと思い、調べてみて知らないことを恥じた。珈琲はいつも飲んでいたけど、しゃれた洋菓子はまるで縁がなかった。今日は石川啄木の命日だが、酒と煙草の歌は思い出すものの、洋菓子の歌は頭に浮かんでこない。やはり赤提灯族だったのだろう。啄木の臨終に友人としてただ一人立ち会った牧水の哀悼歌がある。「初夏の曇りの底に桜咲き居りおとろへはてて君死ににけり」。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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