俊寛を見捨てし二人に戦きき倉田百三の戯曲「俊寛」
高校時代といえば、六十数年前になるが、もっとも熱心に読んだ作家の一人が倉田百三だった。「俊寛」は鬼界が島に流された俊寛と二人の武士の物語で、赦免状の出た二人の武士が誓いを破り俊寛をおいて島を去るという内容である。二人の武士は立派な武士で俊寛だけが島に残ることになれば本気で一緒に残るつもりだったが、いざその場面になったら、態度を豹変したのだ。そして、私もこの武士の立場になればそうしたのではないかと思うと自分という人間がが恐ろしくなった。俊寛だって逆の立場になれば、武士を見捨てたのではないかと思いつつ。先日たまたま倉田百三の遺作三十首を読むことができた。「そのかみの老いしゲーテもわがごとくもてあましけむ衰へぬ春」(「短歌」昭和30年2月号)。人生の最後まで悩み続けてた人だったのだ。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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