No.80/2024年3月20日【ひらがな】 ひらがなのあはさあやふさに身と心まかせ緋色の村木道彦

伊藤一彦

村木道彦氏が3月3日に81歳で亡くなった。全国紙で伝えられていい訃報と思うが、静岡新聞や中日新聞で報じられただけだった。私は作歌を始めた頃に、もっとも影響を受けた歌人だった。私が早稻田の四年の時に、村木氏は慶応の四年生で、歌誌「ジュルナール律」で鮮烈にデビューし、歌壇の話題をさらった。塚本邦雄から植物的と評された、ひらがな書きを特色とする柔らかな抒情の作品に私はすっかり魅了された。「ひだりてからみぎてににもつもちかえてまたあるきだすときの優しさ」他を引いて長編の村木道彦論を書いたりした。代表作はやはり「めをほそめみるものなべてあやうきか あやうし緋色の一脚の椅子」だろうか。「あやうし緋色の一脚の椅子」とはまさに彼自身だったのだ。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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