カラフルなケーキのちらし壁に貼りにらんでゐたる百歳の母
母は甘い物が大好きで、そのためか糖尿病だった。若いころからたとえば羊羹なら一本や二本は平気といった具合だった。しかし、晩年は糖尿病のため甘い物は医師から厳しく制限された。死んだ後はお菓子を仏壇に供えてくれ、いや死んだら食べれない、いま食べたい、と子どものようだった。あるとき、母の居室の壁を見たら宣伝用のケーキのチラシが貼られていた。せめてもの慰めにしていたのだ。百一歳で世を去った。今日は彼岸の入り、お菓子を供えよう。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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