No.68/2024年3月8日【別れ】 別れしも別れられしも人はみなどこにゐたれど銀河系の中

伊藤一彦

「ファークライ」に行きたかったが、間に合わなかった。マスターにお会いしたかった。店を出るときに草太さんにかけたマスターの言葉は優しい。知らない人なのに深い含羞にみちた表情が目に浮かぶ。マスターの年齢を知らないが、私より若い人だったろう。八十歳の私は同年代の友人やもっと若い友人の死に出会うことが多くなった。西行は「世の中を思へばなべて散る花の我が身をさてもいづちかもせむ」(宮河歌合)と歌っており、身につまされる。死が辛いのは別れだからだが、この世で別れることは本当に永久の別れなのだろうか。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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