身の死にてしまへば「骨」だ生きて動く身を支へゐるときは「骨」なのに
「骨(コツ)」を広辞苑で引くと、火葬にした死者の骨の意がまず出てくる。用例は「お骨を拾う」だ。「骨(ほね)」を引くと人の身体の骨の説明が書かれている。この和語と漢語の違いは興味深い。中原中也の詩「骨」は有名である。「ホラホラ、これが僕の骨だ」で始まり、「みつばのおしたしをくったこともある」骨がうたわれ、最後は「立札ほどの高さに、骨はしらじらととんがつてゐる」の一節だが、身が死んだ後の「骨(コツ)」を「骨(ほね)」として表現している独自の詩で、さすが中也である。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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