あっという間に1月が過ぎ去ってしまいました。ここらで一息、三人それぞれ印象に残っている歌を挙げつつ、今月の31首を振り返ろうと思います。
1月の歌のアーカイブはこちら↓
それぞれの心に残った1月の短歌
伊藤一彦・選
No.20/2024年1月20日【絵】
シャンパンのコルクが弾け飛ぶ刹那、向きを変えたり絵の中の蛇 (乃上あつこ)
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下の句が鋭くて面白かったです。シャンパンを開けるのだから、お祝いの席。そのお祝いに背を向ける蛇。嫉妬なのか呪詛なのか。シャンパンをおめでとうと言いながら飲んでいる一人一人に棲んでいる蛇でしょう。
No.15/2024年1月15日【腐敗】
発酵と腐敗の境この人の愚痴はしばしば後者の匂い (久永草太)
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草太さんになるほどと教えられました。まことに人間は勝手ですね。ただ、人間関係も「腐敗」を含んでいてこそ二人の間に発展的に何かが生まれるのかも知れませんね。「腐れ縁」必ずしも悪ならず。
乃上あつこ・選
No.19/2024年1月19日【まなこ】
君さがす木の間に迷ひわうごんの絵踏みかさねるわれ思ひきや (伊藤一彦)
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落葉を「わうごんの絵」としているところにポエジーを感じます。葉っぱを踏む体感と音が伝わります。奥に「踏み絵」をも想像させ、恋への迷いと戸惑いが表されています。読後もいつまでも「わうごん」が残像となって残ります。キュンとする恋の歌です。
No.24/2024年1月24日【さらば】
恒星の寿命もいつか尽き果てるさらば燦々たる晩白柚 (久永草太)
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恒星が死の宣告を受けたように、寿命が尽きていく展開が見事です。大きな恒星の死は、太陽のような晩白柚の輝きの消滅とイコールになっています。死の宣告は、草太さんが食べたことによるという落ちも、素晴らしいですね。「さらば」「燦々」のサの音が心地いいです。
久永草太・選
No.7/2024年1月7日【鮨】
鮨を食べ酒飲みてゐる若きらに酢締めにしたき一人がまじる (伊藤一彦)
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直前が僕の鮨で呑んでる歌だったのですが、伊藤先生からこんな剛速球が投げ返されてたじろいじゃいました。敵愾心を向けて若者を懲らしめんとするやり方がまさかの「酢締め」。けれどなんだかゆくゆくはおいしくなってしまいそうなところに優しさを感じます。
No.29/2024年1月29日【衣・誰】
水流を衣のようにまとわせて誰も触れえぬ女の膚 (乃上あつこ)
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水流の衣というありえない物質を想起させてしまうところに、直喩の力を感じた歌。はだえ、というやわらかい音と「膚」という字の強張り方が心と体の矛盾を思わせます。お母さんポジションから艶やかな歌が飛んできてどきどきしました。
2月のおしらせ
2月1日から、歌をリレーする順番が逆回転になります。
1月:伊藤→乃上→久永
2月:伊藤←乃上←久永
どんな化学反応が起きるのか!何も起こらないのか!ご注目ください!!
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