帰りたるふるさとこそを異土として生きよと空がわれに命じる
坂井修一氏が『短歌』に連載している「かなしみの歌びとたち」の3月号は 光栄にも私の歌が取り上げられていた。その初めの方に室生犀星の例の「ふ るさとは遠きにありて思ふもの」の詩が引かれていた。犀星は「よしや う らぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても 帰るところにあるまじや」と うたった。では、帰った私とは何だったのか。坂井氏に刃を突きつけられな がらあらためて考えている。ちなみに今日は犀星の命日。牧水とも友達だっ たが、牧水より三十年長く生きた。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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