No.442/2025年3月17日【胸に】 それぞれが胸に秘めもつ色のよしたとへばはるかなる虹の色

伊藤一彦

空にかかる美しい虹が虫偏の漢字なのを、むかし疑問に思ったことがある。漢和辞典で調べたらすぐにわかった。虹は竜の一種という伝説があったらしい。では、やまとことばの「にじ」の語源はといえば、「に」は「丹」、「じ」は「風」の意味が有力らしい。漢字の「虹」もやまとことばの「にじ」もイメージが広がる。それにしても、虹の歌はむつかしい。小島ゆかりさんは虹の歌の名手である。以前「希望ありかつては虹を待つ空にいまはその虹消えたる空に」と詠んだ彼女の近作「反戦ははるかなる虹見えながら指さしながらだれも触(さは)れず」は現代の名歌と言っていい。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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