酒どころ摂津の国に飲みつづけ虚仮笑ひせしさすがこの人
若山牧水は早稲田の四年生のときに関西地方を旅している。歌集『海の声』に「摂津にて」十三首がある。「津の国は酒の国なり」の一首で始まる。飲み続けの旅である。灘の酒に舌鼓をうったことだろう。そして「昨日飲みけふ飲み酒に朽ちもせで白痴笑(こけわら)ひしつつなほ旅路ゆく」と歌う。「白痴笑ひ」を『日本国語大辞典』で引くと、「ばかのように、ただ意味もなく笑うこと」と語意がでている。この辞典は用例が詳しく面白いのだが、なんと「虚仮笑ひ」は牧水のこの歌のみである。牧水はどこでこの語を知ったのだろうか。それとも彼の酔い心地がオリジナルに生みだした語か。みなさん、虚仮笑いするまで飲んだことありますか。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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