いちごつみ11月の短歌ふりかえり

おしらせ

大みそかですね。11月の振り返り、なんとか12月中に公開することができました。

11月の歌のアーカイブはこちら↓

それぞれの心に残った11月の短歌

伊藤一彦・選

No.328/2024年11月23日【どんな】
どんな朝もつながっていると思うとき知らないわたしが遠くふり向く(乃上あつこ)

伊藤一彦
伊藤一彦

乃上さんのこの歌は、読みがゆれるが、それがまた魅力である。「つながっていると思う」のは誰かとなのか。「知らない私」とつながっているというのか。
「私」とは何かという問いを感じる。「私」は「既知の私」もあれば「未知の私」もある。また「私だけの私」もあれば「他の人の入りこんだ私」もある。遠くふりむいた「知らない私」はどんな「私」だったろうか。興味津々である。

No.335/2024年11月30日【抱きしめられて】
幾重にも抱きしめられて白菜の真中にやわくねむる白菜(久永草太)

伊藤一彦
伊藤一彦

初句「幾重にも」は初読のときには軽くすっと読んだが、最後まで読んでまた初句に返ったら「重たい」言葉だった。白菜の歌といえば、俵万智さんの「白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる」の名歌を思い出すが、あらためて2020年代の若者のせつなさを想う。「抱きしめられて」「ねむる白菜」を羨ましく眺めている久永さんは3日前には「燗徳利の口より垂れし一滴の酒こそ知らめ冬のさみしさ」と詠んでいたのを思い出す。

乃上あつこ・選

No.306/2024年11月1日【はろう】
破漏有(はろう)の身なるにんげんのあふれゐる街に悪魔はおそれ近づかず(伊藤一彦)

乃上あつこ
乃上あつこ

ハロウィーンからの「破漏有(はろう)」が、思いもよらないつなぎ方で笑ってしまいました。人体のほとんどは水らしいから、確かに人間は「破漏有(はろう)の身」ですね。伊藤先生の一語の積み方が、茶目っ気に溢れていて楽しいです。また同時に、人間は破れやすくて漏れやすい脆い存在なのかもしれない、という示唆も感じられさすがです。

No.314/2024年11月9日【お客様】
お客様の姿を借りた神様が二柱(ふたはしら)いてまだ帰らない (久永草太)

乃上あつこ
乃上あつこ

草太さんは現代を生きている26歳なのに、民話の世界をこの世にプロジェクションマッピングしているようで、少し違う世界を見せてくれておもしろいです。どこか温かく、懐かしい感じがするこのマジックは、おじい様の直伝でしょうか。

久永草太・選

No.330/2024年11月25日【川・鷺】
会いたしと言へば来るなと拒まれつ川の辺に鷺とともに棲む人に (伊藤一彦)

久永草太
久永草太

菊池正子さんに会いに行こうとしてフラれた伊藤先生の歌。しかも「来るな」という手厳しいフラれ方なのですが、それが嫌味にならずむしろかっこよくすら感じるのは、「川の辺に鷺とともに棲む」という静かな暮らしが持つ滋味ゆえでしょうか。じっと動かず水面をにらむ鷺の姿が浮かびます。

No.325/2024年11月20日【フランス】
身をよじり転がりそうなラ・フランス今日これ以上もう笑えない (乃上あつこ)

久永草太
久永草太

一目見て、なんて楽しそうな歌だろうと思いました。笑い転げる表現には「臍で茶を沸かす」などがあるけれど、ラ・フランスもありですね。一度転がったらどちらへ行ってしまうか読めないような形をしています。下句も腹筋がしんどそうでほほえましいです。

吉川宏志さんの10月・11月の歌から

作者/吉川宏志(よしかわひろし)

1969年宮崎県東郷町生まれ。京都市在住。「塔短歌会」主宰。第1歌集『青蝉』で第40回現代歌人協会賞を受賞。今年、第9歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞受賞。最新歌集『叡電のほとり』を今夏刊行。

伊藤一彦・選

No.308/2024年11月3日【銀】
百年なんてちょろいものよとあおぞらに呑まれながらに大銀杏(おおいちょう)立つ (吉川宏志)

伊藤一彦
伊藤一彦

短い時間や月日のものさしで思考を働かせやすいわ私たちへの警告を感じる。ひらがな書きの多いのが印象的で、四句の「呑まれながらに」がすごい。大銀杏は人間に短い時間でものを考えてはだめだよと言っているが、青空はその大銀杏に百年ぐらいの短い時間でものを考えてはだめだよと語りかけている。大銀杏はハイわかっておりますと答えたはず。

乃上あつこ・選

No.294/2024年10月20日【交差点】
交差点というが点ではない、面だ 赤い光を溶かしゆく雨 (吉川宏志)

乃上あつこ
乃上あつこ

歯切れのよい上の句のスピード感と、しっとりと描写する下の句の余情がなんとも言えないバランスでとても好きでした。交差点を渡るたびこの歌を思い出しています。実際に雨が降っているわけでもないのに、交差点に雨が降り赤い光が溶けている景と、さらに神武さまの華やぎを想像します。

久永草太・選

No.322/2024年11月17日【牙】
かつて牙なりし尖りを指に撫づ 卑弥呼もここで糸を切りしや (吉川宏志)

久永草太
久永草太

牙、すなわち犬歯に「糸切り歯」という別名があることをこの歌から知りました。体の器官にはそれぞれに使途がある。犬歯は獲物を捕らえたり争いに用いたりという使途があって尖っているわけですが、そういう動物的に想定された目的とはかけ離れて、糸を切るという人間生活を結果的に助けているわけです。面白い生き物だなあと思います、人間。

↑吉川さんの歌のアーカイブはこちら。吉川さん、ありがとうございました!

12月のおしらせ

おしらせ① 歌を回す順番

12月1日から、歌をリレーする順番が逆回転になっています。
11月:伊藤→乃上→久永
12月:伊藤←乃上←久永

おしらせ③ 12月の写真

月毎に変わっていくサムネイル画像。
12月はいちごのサンタさんズです。

俵万智さんから頂いたお写真です。世界中の子どもたちにプレゼントを届けるにはこれくらいたくさんサンタさんがいるのかもしれませんね。

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