No.363/2024年12月28日【指】 指一本ふるることなく終はりたる初恋あはれと思はざりけり

伊藤一彦

幾人かが集まって、初恋のことが話題になると、「何歳の時だった」というのが話の中心になる。乃上さん、久永さんは何歳の時だったろうか。早熟だった石川啄木は六歳のときに恋をしている。「大形(おほがた)の被布(ひふ)の模様の赤き花/今も目に見ゆ/六歳(むつ)の日の恋』((『一握の砂』)と歌っている。被布は着物の上に羽織る袖なしの防寒着。啄木のこの初恋に対し、牧水の初恋は二十二歳の時である。啄木が命をかけて愛した女姓がいなかったのに対し、牧水は狂うほどに心身の全てをかけてひとりの女性を愛した。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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