みづみづしき天の体のむねはどこほとはどこぞとあふげるタレス
タレスと言えば、西洋哲学の祖であり、神話的な世界観から脱却し、自然の原理を探求した。本人の著作は残っていないが、後の哲学者によって「万物の根源は水である」というアルケー(根源的なもの)探究の言葉はよく知られている。だが、タレスは初めから原理探求者だったのでなく、若いときは豊かな神話的世界観をもっていたのではないかと思う。そんな彼だから秀でた哲学者になり得たのだと私は想像する。天空を仰ぎ見ながら歩いていて目の前の穴に気づかず転がり落ちたというエピソードは若きタレスにこそふさわしい。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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