椰子の木を見上げる首の無防備さ わたしは風と結婚をした
大通りに並ぶ椰子の木を見ると、宮崎に来たことを実感する。この南国らしい木は、体の力みをゆるゆると溶かしてくれる。人との出会いには、ある程度の無防備さが必要だ。私が夫と九回しか会わずに結婚したのは、そもそも結婚への憧れがなかったからだ。期待しなければ「こんなはずじゃなかった」も生じないし、相手をあまり知らないから「こんな人とは思わなかった」も起こらない。結婚した後も、相手のことはあまり知らないままでいいと思いつつ、二十一年過ぎた。
作者/乃上あつこ(のがみあつこ)
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1976年、横浜市生まれ。東京女子大学文理学部卒。中国留学を経て現在は銀座の美容施設に勤務。2014年から短歌を始め、第三十一回玲瓏賞受賞。現在は玲瓏、現代短歌南の会「梁」、牧水研究会に所属。
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