君ときには外に行きたいかクロゼットの奥にねむれるスリーピース君
父は着るものに無頓着で、母はお洒落好きだった。息子の私は父に似ている。学生時代の四年間、ほとんどが学生服だった。一九六〇年ダインの前半でもそんな学生は稀だったように思うが、私は気にとめなかった。大学3年生の早稲田祭の時に上京した母が福島泰樹に息子の第一印象をたずねたら、「学生服しか着ない男」だったそうだ。そのあと、母と一緒に新宿の伊勢丹に行き、初スーツをあつらえた。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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