生の終りしきりに雪を口にしてねむりけりとふ藤原俊成
昨日は藤原俊成の忌日だった。息子の定家は臨終に立ち会えなかったらしいが、俊成は最期には雪を口にして「めでたきものかな、猶えもいはぬものかな」と言ったという。それがどのようなつもりだったか私には分からないが、この時が雪の季節であったことはまちがいない、それと思い出すのは俊成の「雪ふれば峰のまさかき埋もれて月にみがける天の香具山」の名歌である。久保田淳氏の訳を引いておこう。「雪が降ると峰の榊は埋まってしまって、天の香具山は月光に照らし出されてまるで磨かれた鏡のようだなあ」。雪が幻想の美をつくりだしている歌である。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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