会いたしと言へば来るなと拒まれつ川の辺に鷺とともに棲む人に
歌集『鷺の書』の著者の築地正子は東京生まれで、両親は熊本出身である。父と母は宮崎滔天の甥と姪にあたる。その父は地峡物理学が専門の気象学者だった。正子の第一歌集のタイトルが「花綵列島」だったのもうなずける。敗戦後の昭和21年に父母と一緒に東京から熊本県玉名に移り住んだ。正子が26歳のときである。そして、ずっと玉名で暮らし続けた。両親亡き後もひとりで。隣県に住む「心の花」のこの先輩歌人の作品はを私はずっと愛読してきた。長編の築地正子論をかいたこともある。いつだったか、彼女におたずねしたいと手紙を出したことがある。見事に断られた。「夢より出で夢に入りゆく境涯といはばや鷺の秋はわが秋」(『鷺の書』)。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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