急に寒くなりましたね。もうストーブをつけ始めました。
遅くなりましたが10月の歌のふりかえりです。
10月の歌のアーカイブはこちら↓
それぞれの心に残った10月の短歌
伊藤一彦・選
No.278/2024年10月4日【始め】
泣きたいと思う日に限って先に泣く人の話を聞き始め、秋 (乃上あつこ)
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人生の、あるいは人間の不思議をうたう歌だ。めったに泣きたいと思うことはないのに、まれに泣きたいときに、なぜか先に人に泣かれてしまう。自分の泣きたい気持ちが、その泣きたい人を呼びよせたのか。であれば、自分に泣きたい気持ちなかったら、その人と会うこともなかったか。ユングの言ったシンクロニシティ(意味のある群前の一致)の概念を思い出す。
No.277/2024年10月3日【セロファン】
じいちゃんの鼻歌みたい始まりがどこかわからんセロファンテープ (久永草太)
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セロファンテープを歌っているのだが、印象に残るのはじいちゃんの鼻歌だ。「始まりがどこかわからんじいちゃんの鼻歌終わりわからん今日も」と勝手に改作して愛誦している。
乃上あつこ・選
No.276/2024年10月2日【つつむ】
ゆふぞらの茜のセロファンはかなきにつつまれてゐる死者の夢かな (伊藤一彦)
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亡くなった方を偲び、その方の夢にまで思いを巡らせていて深い優しさを感じます。叶えきれなかった夢を包む茜のセロファンが、すべてを叶える魔法のセロファンのようです。短歌が癒しをもたらすということを、この一首が示してくれています。
No.289/2024年10月15日【精霊】
精霊蜻蛉(しょろとんぼ)あまた浮かせて秋風は弔いながらふいてゆく風 (久永草太)
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草太さんの文章は時に動物図鑑のようで、いつも学びになります。上の伊藤先生の歌とセットで読むと、どちらも優しく見送る感じがあってさらにいいですね。セロファンと精霊(しょろ)の音の軽やかさもユニゾンしているような響きです。
久永草太・選
No.291/2024年10月17日【回転】
白か黒か唾とばしつつあらそふは回転焼のあんこの話(伊藤一彦)
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白か黒かの二択では決まらないグレーゾーンだらけの世の中にあって、回転焼のあんこほど白黒はっきりつけなければならない問題も少ないと思います。グレー餡などはないわけですし。でも、そんなくだらないことで唾を飛ばすほどに議論できる関係性というのも少しあこがれます。
No.296/2024年10月22日【確か】
ネイルから剥がれた枯葉を確かめる膝裏ゆっくり冷えてゆく夜 (乃上あつこ)
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未だ人生で膝裏の冷えというものを経験したことがありません。意識していないだけでじつは冷えているのだろうか、と触ってみたけれどぽっかぽかでした。ネイルの剥がれ落ちのように、なにか自分の身体の一部と言い切れないような感覚が、いつかこのからだのどこかに発生する日が来るのかもしれない、と感じさせる一首でした。
11月のおしらせ
おしらせ① 歌を回す順番
11月1日から、歌をリレーする順番が逆回転になっています。
10月:伊藤←乃上←久永
11月:伊藤→乃上→久永
おしらせ② 叔父、続投(特別ゲスト)
いちごつみ一家の叔父、吉川宏志さんに、11月も引き続きご参加いただいております!
作者/吉川宏志(よしかわひろし)
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1969年宮崎県東郷町生まれ。京都市在住。「塔短歌会」主宰。第1歌集『青蝉』で第40回現代歌人協会賞を受賞。今年、第9歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞受賞。最新歌集『叡電のほとり』を今夏刊行。
いつもいつも発想と描写が鋭い吉川さん。ほんとうにかっこいい。11月、残すところあとわずかですがよろしくお願いします。
おしらせ③ 11月の写真
月毎に変わっていくサムネイル画像。
11月はいちごの紙風船です。
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乃上さんが久永にプレゼントしてくださいました。たまにぱすぱすと飛ばしています。
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