さすが知の国のフランスの諺ぞ「変はれば変はるほど変はらない」
いつも胸に秘めていることわざである。知ったのは今から十数年前だろうか。 齋藤環著『世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析』(角川書店)という面白い本に出てきた。齋藤環は「引きこもり」関連の著作で関心をもった人だ。どの分野でも鋭い論に頷かされる。その齋藤が自分の「人間観のもっとも根本にある原理のひとつ」 というのがこのことわざである。人が本当に変わることは難しいと述べつつ、しかしこのことわざは人は変わりっこないという諦観ではないと齋藤は言う。反対に「人の変化」を肯定するための言葉だと。私もそのように受け取り、大切にしている言葉だ。自己の 歌風も大いに変化していいのだ。変化するときに、じつは変化していないものが見えてくる。
作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)
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1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。
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