かつて牙なりし尖りを指に撫づ 卑弥呼もここで糸を切りしや
更科功の『絶滅の人類史』を読む。類人猿には大きな牙があるが、人間の犬歯は小さい。なぜ退化したのか。
牙を使うのは、オス同士がメスをめぐって争うときが多いという。
「人類は一夫一妻制の社会を作るようになったので、同種内での争いが穏やかになったのだろうか。」
更科氏は、この仮説についてじっくりと考察してゆく。大昔は、今よりもさらに男女のいざこざは凄惨だったのだろうか。
「……古(いにしえ)も 然(しか)にあれこそ うつせみも 妻を 争ふらしき」(『万葉集』巻第一)
という中大兄皇子の歌を思い出した。
作者/吉川宏志(よしかわひろし)
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1969年宮崎県東郷町生まれ。京都市在住。「塔短歌会」主宰。第1歌集『青蝉』で第40回現代歌人協会賞を受賞。今年、第9歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞受賞。最新歌集『叡電のほとり』を今夏刊行。
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