談合は悪やない、無駄な争いが無うなる、とN社長言いにき
○○市からの仕事を、地元の数社で入札する、ということはよくある。値引き競争をすると、どの会社も損をしてしまう。そこで、だいたいの金額を相談して、その範囲で見積もりを出しましょうや、という話になる。そのような場に、私も何度か立ち合ったことがある。N社長はその後、地元の新聞に追及されることになった。ある会議の途中でトイレで出遇ったのだが、太った腹にベルトを締めながら、「世間は理解してくれないもんです」とぼそっと言ったのをよく憶えている。引退して間もなく、病死したという知らせが伝わってきた。
作者/吉川宏志(よしかわひろし)
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1969年宮崎県東郷町生まれ。京都市在住。「塔短歌会」主宰。第1歌集『青蝉』で第40回現代歌人協会賞を受賞。今年、第9歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞受賞。最新歌集『叡電のほとり』を今夏刊行。
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