交差点というが点ではない、面だ 赤い光を溶かしゆく雨
十月が終わる頃、宮崎市には「神武さま」(宮崎神宮大祭)がやって来る。昼は獅子舞や神輿や馬などが大通りを歩き、夜は歩行者天国になる。いつもは車がひっきりなしに走っている交差点が、暗い影になった人々で賑わって、不思議な華やぎがあった。高校生のときは、誰かと誰かがデートしていた、という噂が飛び交った。ただ高校三年生になると、「神武さまに行くと受験に落ちる」というジンクスがまことしやかに語られ、私も行かなかった。その翌年に宮崎市を出たので、もう四十年近く神武さまを見ていない。懐かしいな。今も祭りの前に、高校生たちは心を悩ませているのだろう。
作者/吉川宏志(よしかわひろし)
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1969年宮崎県東郷町生まれ。京都市在住。「塔短歌会」主宰。第1歌集『青蝉』で第40回現代歌人協会賞を受賞。今年、第9歌集『雪の偶然』で第58回迢空賞受賞。最新歌集『叡電のほとり』を今夏刊行。
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