No.276/2024年10月2日【つつむ】 ゆふぞらの茜のセロファンはかなきにつつまれてゐる死者の夢かな

伊藤一彦

81歳の私に同年代の友人や知人の訃報が多く届くようになった。死とは何かと考える。ローマの哲学者のセネカは「死はあらゆる苦痛の解消であり、そのしゅうえんです。われわれの苦悩はそれから先へ行くことがないのです。死は、われわれが生まれてくる以前にそこに在ったあの安らぎの地へ、われわれを連れ戻すのです」と言っている。亡くなった友人達は苦痛や苦悩から離れることができたのだと、セネカの述べるように思えれば救われる気がする。しかし、死の前には友人達はもっと叶えたい夢があったのにと無念だったのではないかと同時に思う。

作者/伊藤一彦(いとうかずひこ)

1943年、宮崎市生まれ。「心の花」会員。「現代短歌 南の会」代表。若山牧水記念文学館長。読売文学賞、寺山修司短歌賞、迢空賞、斎藤茂吉短歌文学賞など受賞多数。

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